イベントレポート
2009年11月8日日曜日に、早稲田大学早稲田キャンパス8号館B102教室で音楽家の畑 亜貴さんをお呼びしてのイベントを行いました。事前応募の段階から予想以上の反響をいただき、当日も300人規模の教室がお客様で満員となりました。たくさんのご来場ありがとうございました。
ここでは、イベントの内容はもちろん、ふつうのイベントではお知らせできないリハーサルや控室での出来事も交えつつ事後レポートとさせていただきます。
リハーサル&イベント直前の様子 |
イベント |
Q.「アニメ"あずまんが大王"のOP曲
『空耳ケーキ』
のタイトルはどのように?」
A.「まずテーマを決めましたね」
「(曲を聴いた感想が)なんかクッキー空飛んでるんじゃねーの?っていう印象が強かったですね」
「色々検討して落ち着いたのが『空耳ケーキ』かなって思いました」
Q.「アニメ"涼宮ハルヒの憂鬱"のED曲『ハレ晴レユカイ』は世界中で大ヒットしましたが、その要因はなんだと思いますか?」
A.「それが分かってたら苦労しません(笑)」
それが分かっていれば何度でもヒットさせられる、との発言には会場も苦笑い。
"詞の意味"に関しての質問が出た場面では、「私が説明しちゃうと、それが正解みたいになっちゃうので、自分で解説はしたくない」とおっしゃっており、「(感想とか気持ちとかは)曲を聴いている皆のもの」という発言など、畑さんの音楽にかける繊細な想いに心を打たれました。ちなみに作詞中の気分転換は、「寝る」「ゲーム(今は"ポケモン"と"ドラクエ")」だそうです。
Q.「アニメタイアップ曲全般について、作詞の際に気を付けていることは?」
A.「人間関係!」
アニメでは色々な人物が関わってくるため、人間関係を意識して作ることが大事のようです。アニメ曲よりゲーム曲の方が作りやすいともおっしゃっていました。
ここからは各楽曲について具体的に。
Q.「中原麻衣さん、清水愛さんの歌う『秘密ドールズ』に関してのエピソードはありますか?」
A.「二人が可愛いとしかいいようがないですね」
「PV見てください」
畑さんはお二人の百合っぷりをとても気に入られているようです。(笑)
Q.「"涼宮ハルヒちゃんの憂鬱"OP曲『いままでのあらすじ』のキョンや古泉の突っ込みに関してはどのように決めていますか?」
A.「キョン(杉田智和さん)に関しては基本的にお任せ。(詩中の『畑 亜貴に言え!』について)出来上がりを聞いたときは目が飛び出るかと思った。何を言ってるんだ、と」
Q.「アニメ"NEEDLESS"ED曲、『Aggressive Zone』に関してエピソードはありますか?」
A.「某動画サイトを見てて、サビのとこで腹筋が震えちゃって」
「(スクリーンに映った歌詞を見て)なんだっけ? なんとかー、ロリコンだー○○○○○○、みたいな(笑)」
「帰って探してみてください」
自分で作った曲のMADや替え歌などを何回も聞いて、「もうそれにしか聞こえないんですよ」「自分で作ってる時は全然気がつかなかった」「(脳内で)書き換えられちゃって」と力説。大人の都合上、ここでリンクを貼るわけにはいかないので、ご自身でお探し下さい。
このように多種多様なアニメソングの作詞をなさっている畑さんですが、人を笑わせる曲よりも人を泣かせる方が簡単であり、言葉選びで笑わせようとする曲は、それに意味を持たせることが難しい、と感慨深げに話しているのも印象的でした。
このコーナーでは事前にネット上で募集した、畑さんご自身や畑さんの曲に対するコメントを紹介しました。
その中の、『残酷な願いの中で』(「咲 -saki-」ED)についてコメントで、「畑さんの曲には"夢"という言葉が本当によく出てきていますね。」とありました。これに畑さんも「(夢の方が全部含んでいるから)愛より夢が好きですね」と語って下さり、会場のお客様は畑さんの思考の深さに感心されているようでした。
しかし、ここで「"夢"を入れると、歌詞が通りやすい(採用されやすい)んですよ」と、まさかの衝撃発言! なんとも夢のない話でございます。(笑)
皆様から事前に詩を特設サイトから募集し、畑さんに批評してもらおう! という本イベントの目玉コーナー。畑さんも非常に楽しみにしていらしたそうで、どれを取り上げるかを本番直前まで悩んでいらっしゃいました。どれもこれもレベルの高いもので、畑さんにも喜んでいただけました。多数のご投稿、本当にありがとうございました。
ここでは、本イベント中に畑さんによって取り上げられた"まくたくま"さん(女性)の作品『ハーフムーンが見てるから』の導入部分を例に、プロの作詞家の考え方を見てみましょう。
『ハーフムーンが見てるから』
真夜中の お出かけ スキップして はしゃいでみる わたしがいくらお話しても 誰もわかってくれないけれど いつも素直にしているだけよ ハーフムーンが見てるから だから それは 許してあげる |
素人目にも綺麗な詩のように思えますが、この作詞を畑さんはどのように解釈するのでしょうか。以下が、この詩に対する畑さんの考察の概要です。
まずタイトルが可愛らしくてよく、歌詞も良い。特に出だしの4行がGood。
『真夜中の お出かけ スキップして はしゃいで"みる"』ということは、今までははしゃいでなかったと解釈でき、では「何故はしゃいでなかったのか」と言うと、『わたしがいくらお話しても 誰も分かってくれないけれど』に繋がってくる。つまり、ワクワクしているのか、鬱鬱としているのか、最初は分からない(真夜中の お出かけ)。分からない中で、自分が行動を起こし(スキップして はしゃいでみる)、そしてそこに理由(わたしがいくらお話しても 誰もわかってくれない)がある。この流れが凄く(聞き手や読者に)入ってきやすく、非常に美しく出来ている。
ただ一つ惜しいと思えるのが、タイトル『ハーフムーンが見てるから』が詩中にあり、しかも結構な早い段階で出てきてしまっている点。導入部分の情景が綺麗に出来ているため、そこに繋がるようもっと感情的な部分を引っ張っていくと、聞いている人をもっと引き寄せることが出来る。今のままだと、『だから それは 許してあげる』の"それ"が何か分からず、『ハーフムーンが見てるから』の一言で流れが止まってしまっているよう感じられてしまう。ここでは、タイトルの『ハーフムーンが見てるから』ではなく、詩中の気持ちをより感情的にした言葉を入れると、情景的な流れが自然に引っ張られていくだろう。
こうした自身の解釈を細部に渡って言葉にしていた畑さんですが、「あくまでも自分の意見」と強調し、書いた方への配慮も忘れていませんでした。自分の作品でもないのに、導入部分のたった9行だけでこれだけの情景が思い浮かぶ、畑さんの解釈力。
Q.「キャラクターソングを作る際の手順は?」
A.「資料を読む…、曲を聴く…、おもむろに歌詞を書く…、ですね」
Q.「アニメ"涼宮ハルヒの憂鬱"の長門有希のような、あまり性格を前面に出さないキャラクターの楽曲ではどのように作詞していますか?」
A.「ね●ぞうです」
それでも形にして世に送り出すだけでなく、キャラソンでヒットチャート上位に食い込ませてしまうんですから驚きです。"にょろーんちゅるやさん"の楽曲依頼では、スモークチーズくらいしかネタがなく、3枚(カップリング含め6曲)目で「これで終わりのようなタイトルを付けてやる!」との思いから『このスモチからの卒業』というタイトルを付けたという裏話も話して下さいました。
Q.「ノンタイアップ曲全体に関して、アニメタイアップ曲との違いなどはありますか?」
A.「こっちは歌い手が主役になるので、この先に(歌い手の人生が)どう展開するのかというのをかなり考えてから制作に入るんですよ」
「その人の、運命がかかっているようなもんじゃないですか、一曲一曲に」
「だからこう……、責任感を感じます」
等々、アーティストの方への気持ちを熱く熱く語って下さいました。(プロジェクトの方針として)アーティストの思うような曲を歌って貰えないこともあり、「作詞家として出来るだけ本人が歌いたいようなエッセンスをいれてあげたい」ともおっしゃっていました。とくに、「その人(アーティスト一人ひとり)に書いているわけだから、その人が気に入って楽しく歌ってくれないとこれはもう(どんなに上手にできたとしても)作詞として失敗」とおっしゃった時は、畑さんの作詞した曲がファンだけでなくアーティストの方に愛されている理由が垣間見れた瞬間だったのではないでしょうか。
Q.「清水愛さんへの楽曲提供の際はどのようなことに気を付けていますか?」
A.「『こういう映像とこういうテーマと清水愛という組み合わせにしたい』というのが(先方の依頼として)来るので、それに沿うようなテーマを考える方が先かもしれないですね」
具体的な楽曲で『NUOVA STORIA』についてお聞きすると、「凄く個人的な意見を言うと、(清水)愛ちゃんに『して……』と言ってほしかったんですよ」と、楽しそうに話して下さいました。プロデューサーと色々と揉めたらしいですが、粘った結果がこの曲のヒットに繋がったようです。
Q.「茅原実里さんへの楽曲提供の際に気をつけていることはありますか?」
A.「(茅原実里さんは)凄く緩い部分と、凄く強い部分とが極端なんですよね。だからその時の彼女を多分ファンの方は見守っていくような気持ちではあるんじゃないかと思うんですよ」
「(初シングルの時から現在ライブで満員になる過程で)成長している部分を、作詞という形で断片的にファンの方にお見せしたいな、っていうこれが自分のポリシーなんですけど、みのりんに対しては」
「(そうでないと)その時のみのりんは表現できない」
茅原さんへの作詞について、最初と現在では「違います。全然違います」と強い口調でおっしゃっているのが印象的でした。
このコーナーでは、今までの質問形式ではなく、お客様から事前に「お気に入りの楽曲」投票を募集した結果をランキング形式で発表していきました。
その結果がこちら↓
畑さんの中では、第9位『Super Noisy Nova』や第8位『Princess Primp!』が「このへんが思ったより高かった」と、スクリーンを指さしていました。
第5位『God knows...』は、畑さんご自身の当時の気持ちを込めたものであるため、あえて調整せず、勢いだけで書いた作品であるとのこと。「だからちょっと痛い歌詞にした」の言葉には、自身の体験を思い出したのか、ちょっと恥ずかしそうにしていました。
第4位の『水中飛行』作詞、作曲、歌、全て畑さんご自身によって作り上げられた作品ですね。この作品のタイトルがスクリーンに映された瞬間「なんでこれが!?」と笑いながら絶叫し、『God knows...』に続き「何もかも恥ずかしい……」と、かなりテンパッてました。
見事第1位に輝いた『空耳ケーキ』は、イベント冒頭でも触れましたが、「11回くらい書きなおした」と大変苦労したようで、「努力が報われた」と本人も納得の1位獲得でした。
こうして人気楽曲投票のコーナーも終わり、イベント開始からそろそろ2時間。いよいよ本イベントも終了……となる予定でしたが、畑さんの意向により、急遽お客様から畑さんへの質問タイムとなりました。
その様子がこちらです。
急遽始まった質問コーナーですが、そこでなんと、作詞コーナーで畑さんに批評されたお客様が2人もいらっしゃることが判明し、「どうすれば作詞家になれるのか」という真剣な質問が飛び出しました。
「まず、作詞家として、作詞家、作曲家、編曲家を抱えている事務所に所属した方がいいと思います。つまり、自分一人で営業するのは難しいので、営業しているところを――もし自分が気に入った作品とかがあって、それを作っている事務所があったら、多分カラーが合うと思うんですよ。そういう自分がシンパシーを感じられるような作家を抱えている事務所に、直接作品を持ち込む。これが最短ですね」という丁寧な回答には、質問されたお客様だけでなく、会場の皆さんも真剣に聞き入っていました。
こうして、この質問の答えを最後に質問コーナーも終わり、3時間近く続いた本イベントも無事閉幕を迎えました。紆余曲折を経ても、最後にビシッと決めちゃうところがさすが畑さん、プロの音楽家としか言いようがないですね。
音楽家として、プロの作詞家として、そして一人の女性として。色々な"畑 亜貴"の顔が見られる素晴らしいイベントとなったことに、当会一同畑さんに感謝です。
また、無事イベントの終了を迎えられたのは当日足を運んでくださった皆様のお蔭です。本当にありがとうございました。
繰り返しになりますが最後にもう一度。一大学サークルのイベントに参加して下さった畑さん、快く引き受けて下さったジェオ様、そして本イベントに関わった全ての方々、本当に、本当にありがとうございました。
来年以降もよりよいイベントを開催できるよう、当会一同今から動きだしております。来年の企画もご期待下さい! これからも早稲田大学アニメ声優会をよろしくお願い致します。